2017年 05月 20日
さきちゃんたちの夜
失踪した友人を捜す早紀。祖父母秘伝の豆スープを配る咲。双子の兄を事故で亡くした崎の部屋に転がり込んだ、10歳の姪さき・・・。
いろんな〈さきちゃん〉に訪れた小さな奇跡が、いまかけがえのないきらめきを放つ。
きつい世の中を、前を向いて生きる女の子たちのために。
「スポンジ」「鬼っ子」「癒しの豆スープ」「天使」「さきちゃんたちの夜」人生の愛おしさに包み込まれる5編。
『さきちゃんたちの夜』背表紙より
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これを読んだのは昨年の7月
あ-、時が経つのは本当に早い
ちょうど、正式に復職して、年休も取れるようになって(むしろ4ヶ月で22日消化しなきゃいけないくらいで)、少し余裕が出てきたところだったかな
だから手に取ったんだと思う、たぶん、もう覚えていないけれど
でも読んだ場所は覚えている、シチュエーションも
そして心に留まったフレーズはメモしておいたので、以下記録しておきます。
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(スポンジ)
なにかにいつのまにか賭けて没頭することができるのは、なによりすばらしいことだ。でも、そのことで体を壊したり、疲れてしまったり、自分の人生がなくなってしまったり、不安になるようだったら、それは間違っているし長くは続かない。
夜中に「今からごはん食べに行きませんか?」と電話がかかって来ては、近所の居酒屋でしょっちゅう集合したこと、そんなとき、ひとりで川縁をずんずんと店に向かって歩いていくと夜中の空気がキラキラと肺に入ってきて、星のまたたきがきれいすぎて、大好きな人たちに今会いに行ける自分はとても幸せだなあと笑顔になったこと、みんな覚えている。
(癒しの豆スープ)
「豆スープ、完成するといいね。」
言葉と、その人の考えに距離があることはいくらでもある。
その方が普通だと思う。内心いろいろ思っていても感じよくふるまったり、こう言っておいた方がいいだろうということを言ったり。
でもその言葉はほんとうに言葉通りだった。
そんないつもの会話をして電話を切ったあと、あの胸のざわめき、空洞になったような淋しさ、怖さがなくなっているのに気づいた。夫婦じゃないけど、これこそが夫婦の会話の効用と呼ばれるものだ。なにも話していないのに、収まるところになにかが収まった。
あまりにも世界は広いから、私にとってどうでもいい人たちにも、それぞれにその人をどうでもいいと思わない人がいる。そして私にとってどうでもいい人の中に、やがてどうでもよくなくなる人が出てくるかもしれない。増えたり減ったり、満ちたり引いたりしている。自分を閉じ込めるのは自分だけ。閉じ込めたほうが楽だし、人のせいにできるから気が重くないんだけどねえ、と私は独り言を言った。
(さきちゃんたちの夜)
「とりあえず、一回気持ちをそらして楽しいことを考えよう。」
私は言った。
「お菓子やジュースでも買って帰って、好きなDVDでも観て、楽しく過ごそう。」
「大人になったら、そういう小さな楽しみが大きな悩みを消してくれるの?」
さきはまっすぐに私を見て言った。本気で聞いていることがわかったので、いやみを言われているとは感じなかった。
「これはねえ、逃げじゃなくて、魔法なんだよ。私の場合。」
私は言った。
「時間を稼いで、チャンスをつかむのさ。その稼いでいる時間のあいだは、楽しくしなくちゃ魔法は起きない。」
「楽しくしてるうちに、本来の目的を忘れてしまったら?」
さきは言った。
「う~ん、忘れられるくらいのことだったら、別に忘れてもいいんじゃないかな。」
私は言った。
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あんまり短編て好きじゃない、とここでももう何度となく言っているのでご存知かと思いますが苦笑、本作に限っては、良かったかもなあ
〈さきちゃん〉という1点で繋がりがあるから、まとまりがいいのかな
引用したフレーズも、至極当たり前のことを言っていたり、本質としては日常生活の中で感じていたりすることなんだけど、それをこう、心に自然としみてくる表現で綴るあたりがばななさんの素晴らしいところだと思っています
あ-、やっぱり好きです、ばななさんの作品
みぃ
by miepearl13
| 2017-05-20 13:03
| book